★ 空気の分離方法については、次の動画資料もご覧ください。
酸素の製造方法 - 概要 (7:03)
酸素の製造方法 - ASU (16:08)
ガス製造工場では空気を取り入れて、酸素・窒素・アルゴンを製造しています。
従って、原料を外部から持ち込むことはありません。
原料となる空気の組成は下表のとおりです。
表1 空気の組成
成分 | 濃度(%) |
---|---|
窒素(N2) | 78.08 |
酸素(O2) | 20.95 |
アルゴン(Ar) | 0.93 |
その他 | 0.04 |
出典=化学便覧<基礎編> |
確かに原料となる空気にはコストがかかりませんが、空気から酸素などを取り出す工程では非常に多くの電力を使います。原料空気から酸素や窒素を取り出す方法には、空気を液化して蒸留で分離する深冷分離法、吸着剤を使って分離する吸着分離法、膜を使って分離する膜分離法というものがあります。いずれの方法も原料空気を昇圧する必要がありますが、特に、大量かつ高純度の酸素や窒素を製造することができる深冷分離法を用いたガス製造工場では、空気を圧縮するために大型の圧縮機が使われており、そこで多くの電力を消費しています。
このようにガス製造工場は、製造コストの大半を電力が占めている電力多消費事業といえます。
ここでは、酸素・窒素を効率よく大量に製造できるため空気分離の主流となっている深冷分離について説明します。
まず、物質には気体、液体および固体の三態がありますが、このうち液体が気体となる温度を沸点といいます(気体が液体となる温度は露点といいます)。空気中の主な成分は窒素・酸素・アルゴンですが、これらの常圧における沸点(露点)は図1のとおりで、窒素がもっとも液化しにくく、もっとも蒸発しやすい物質になります。深冷分離とは、このような空気中の酸素や窒素の、蒸発・液化のしやすさの違いを利用した「蒸留」という分離方法の一種です。とても低い温度まで冷やして蒸留するので深冷分離と呼ばれます。
具体的な酸素と窒素の製造方法を紹介します。まず原料空気を(1)フィルターを通してゴミを取り去ったあと、(2)圧縮機で約0.5MPaまで圧縮します。圧縮した空気は80℃程度に上昇するため、(3)水洗冷却塔で約10℃まで冷却します。その後、(4)吸着器にて低温で固化する水分や二酸化炭素を吸着除去し、(5)分離器に導入した原料空気を熱交換器で-170℃程度まで冷却した後、精留塔に導入し、蒸留によって酸素と窒素に分離します。
ウィスキーや焼酎は蒸留酒と呼ばれますが、これらは蒸留でアルコールを濃縮したお酒という意味です。一方、深冷分離では、アルコール濃縮よりはるかに高純度となる濃縮を行なうので、より精密な蒸留という意味で「精留」と呼ばれています。
この時、低沸点成分(蒸発しやすい成分)の窒素は精留塔の上部(ガス側)から、高沸点成分(液化しやすい成分)の酸素は下部(液側)から採取します。
従って、深冷分離装置による酸素や窒素の製造においては、化学工場のような化学反応や燃焼等は一切なく、ガスの圧縮および膨張といった物理操作のみで製品ガスを製造しており、非常に安全な製造方法といえます。
水の電気分解による酸素の製造もあります。しかし、水の電気分解ではコストが高くなり、また大量に酸素を生産することができません。
これに対し、深冷分離法では酸素・窒素の分離だけではなく、アルゴンの併産も可能であり、また大量生産に対応できるため、酸素を大量に消費する製鉄所や化学工場向けに、この深冷分離法が採用されています。
酸素やアルゴンは、大半を製品として採取しますが、窒素に関しては高純度の窒素を製品として採取し、低純度の窒素は図の④の吸着器の再生ガス等に利用し、その後大気放出しています。
また、空気中ごくわずかに存在し、ランプや医療用などに使用されるクリプトン、キセノンやネオン等(以下「希ガス」という)についても、必要に応じて採取する場合があります。この場合、通常の深冷分離装置に加えて、希ガスを精製するための装置が必要となります。よって、需要やコストなどの関係から希ガスを併産できる工場は全国でもわずかです。
地球には空気の層が10km以上もあり、空気を一箇所で大量に取っても地球規模からするとわずかな量ですので、空気が少なくなったりすることはありません。
海水から塩を取っているところでも海水の塩分が薄くなることがないのと同じように、空気から酸素を取っても工場付近の酸素が薄くなることはありません。
構外から見える高く四角い箱を一般的にコールド・ボックス(以下「CB」という)と言います。このCBは鋼板製ですが内部には、ステンレス製の精留塔、アルミ製の熱交換器および配管等が収められています。
精留塔、熱交換器および配管等は-200℃近い低温であり、大気からの侵入熱があると精留操作が阻害されます。そのため、侵入熱を防止する目的でCBには大量の断熱材が充填されており、内部機器の低温を保っています。
簡単に言えば、一般的に使われているクーラーボックスのようなものです。発泡スチロール製のクーラーボックスに氷を入れ、魚などを冷やして活きが良いまま輸送する場合の「氷と魚」がCB内の「低温の精留塔や熱交換器」にあたり、充填されている「断熱材」が冷たい氷を外気で溶かさないための「発泡スチロール」と同じ役割を果しています。ただし、CBに充填されている断熱材は粉末状なので、発泡スチロールのようにそれだけで容器を形成できないため、鋼板製の外槽が必要になります。
白色には太陽光を反射する効果があることは一般的にも知られていますが、この効果を利用して保冷効果を高めるためにCBは白く塗装されています。
また、ガス製造工場には、製造した製品液化酸素・窒素・アルゴンを貯蔵する低温貯槽が設置されていますが、この貯槽もCBと同様に断熱材等によって保冷されており、その外槽も白く塗装されています。
ガス製造工場では、原料空気や製品ガス等を大気放出することがありますが、その際に「音」が発生します。このようなガスを放出する際に発生する「音」に対しては、放出口に消音器を取り付けることで低減しています。
また、上記以外にもガス製造工場にはいろいろな音源があります。代表的なものとしては、(1)原料空気および製品ガスを圧縮する際に使用する大型の圧縮機から発生する「音」、(2)製品液化ガスをローリ車へ充填する際に使用するポンプから発生する「音」、(3)配管内を流体が流れる時や、流れている流体の圧力を変化(降圧)させる際に発生する「音」などがあります。
(1)および(2)のような回転機から発生する「音」については、回転機を屋内もしくは防音壁内に設置する等で低減を図っており、(3)のような流体の「音」については、配管に防音材を巻く等の対策を実施しています。
特に、住宅街に隣接したガス製造工場では法的な規制もあり、「音」(騒音)への対策に力を入れています。
一般的に工場が環境に影響を与えるとして問題視されるものの中に、有毒ガスによる大気汚染や汚水による水質汚染があげられます。
ガス製造工場(深冷分離装置)から放出されるガス(無色・無臭)はその製造工程からもわかるとおり、もともと空気中に存在していたものであり、大気に戻したところで環境に何ら影響を及ぼすものではありません。
また、ガス製造工場で使用する水は、圧縮された原料空気の熱をとる(熱交換)ための冷却水として利用しています。この冷却水は原料空気との熱交換に使われた後、冷凍機に戻されて冷却され、再び冷却水として使用する循環サイクルになっており、系外(工場外)に排水することはほとんどありません。また冷却水は汚染された流体と接触することがないので、汚水となることもありません。
このように、ガス製造工場から直接環境を汚染するようなものを排出することはなく、非常にクリーンな工場(製造方法)といえます。
しかしながら、先に述べたとおりガス製造工場は電力多消費事業であり、エネルギーを多く消費するという観点から見れば、少なからず地球環境(地球温暖化等)に影響を及ぼしているといえます。
ガス製造コストの大半が電気代ですから、ガス製造工場ではコスト低減の観点から電力使用量の低減に努力しています。近年では高効率圧縮機の採用や深冷分離装置の効率化等を進めることで電力の有効利用に努めています。
高圧ガスとは高圧ガス保安法で定義(規制)されるガスの総称であり、高圧ガスという名称の製品ガスが存在するのではありません。
高圧ガス保安法は、取扱いを誤ると事故につながる恐れのある高圧ガスの製造・貯蔵・販売・消費などに対して規制する法律です。高圧ガス保安法における高圧ガスとは、次のとおりです。
ガス製造工場では製品ガス(酸素や窒素)を製造する工程で空気を圧縮・液化するため、高圧ガス保安法で規定する高圧ガス製造事業所に該当します。そのため、高圧ガス保安法の規制対象となり、製造方法や保安距離(学校や一般家庭から離す距離)など厳しい制約が設けられています。また、ガス製造工場は高圧ガス保安法以外に消防法や労働安全衛生法などさまざまな法規制の対象となっており、これら法規制を満足するため、ガス製造工場では法に規定される有資格者を配置した保安組織をつくり、また高圧ガス保安法に従い保安検査や定期検査を行い、工場の保安を維持・管理しています。
空気から酸素を製造する方法としては深冷分離の他に、吸着分離や膜分離があります。
吸着分離はゼオライト系吸着剤のガスに対する吸着特性の違い(加圧で窒素を吸着、減圧で窒素を脱着・排気)を利用して、2筒式の吸着筒を加圧と減圧の操作(圧力変動)を交互に繰返しながら酸素を分離します。
膜分離は膜の透過速度がガスによって異なることを利用して分離するもので、透過速度が速い酸素と遅い窒素を分離します。どちらの分離方法も、深冷分離と異なり、常温かつ低い圧力で分離を行うため、高圧ガス保安法の規制対象外です。また構成機器も深冷分離と比べて少なく、装置をコンパクトにでき、その結果低コストで酸素を製造することができます。しかし、どちらも高純度の酸素を大量に生産できないため、高純度を必要としない電気炉、ゴミ処理等の中規模需要家で使用されています。