火炎温度の高さ、火炎集中性の良さを生かして、金属加工分野で活躍。

縁日やお祭りのやわらかな灯り、アセチレンランプは、カーバイドに水を反応させてアセチレンガスを発生させて燃やすという簡便な光源として、夏の風物詩でした。
今日では、アセチレンランプを目にすることはまずありませんが、工事現場などでしばしば「アセチレンガス」と表示された茶褐色の容器にお気づきのことと思います。

溶解アセチレンの特性

アセチレンガスは、酸素等の助燃性物質がなくても、加圧下では自己分解を起こして多量の熱を発生する活性に富んだガスですが、工業的には、アセトンまたはDMF(ジメチルフォルムアミド)を浸透させた多孔質の固形マスを詰めた容器に圧縮され、充填されています。仮に気相で分解爆発が起こっても、「溶解」された液相のガスにまでは伝わらないという、極めて高い安全性を確保した状態で流通・消費されています。

アセチレン容器の容積比(アセトンに溶解の場合)

溶解アセチレンはカーバイド法で製造

アセチレンガスの製法としては、石油から製造する蓄熱炉式熱分解法や、天然ガスを原料とする部分燃焼法、さらに完全燃焼法や電弧法等がありますが、「溶解アセチレン」はすべてカーバイド法によって生産されています。カーバイド法とは、基本的には「アセチレンランプ」と同じ原理のものを工業的に確立したものです。

溶解アセチレンの製造フロー

切断・加熱分野で活躍

歴史的には、明治後期に欧州よりガス切断技術が導入されて以来、アセチレンガスはわが国産業の発展に大きく寄与してきました。金属切断・加工の歴史はまさにアセチレンガスとともにありました。1950年頃から生産量は増加を続け、1970年には年間約6.4万トンが生産されていました。しかし、大型容器がなく運送効率が悪いことから遠隔地配送に適さないこと、同様に、多量供給面に若干不便なことから大口需要家で代替ガス転換が進んだこと、金属加工分野においてプラズマ加工やレーザー加工等への技術変革が進んだこと等により、現在では生産量は年間約2万トンとなっています。

大量消費型の需要家においては、アセチレンガスの代替ガスとして、メタンガスやプロパンガス、エチレンガスといった石油系ガスが使用されるようになりましたが、アセチレンガスはそれらに比べ、火炎温度が3,330℃と最も高いという特徴があります。また、アセチレンガスの火炎は他の石油系ガスに比べ最も火炎の集中性が良く、高温で最小限のガスを切断個所に集中できるという最も効率の良い切断用ガスであり、この特徴を生かした主な用途として、切断・圧接・焼き入れ・溶射・ろう付等の金属加工があります。また、原子吸光分析用燃焼ガスとして分析に使用されたり、レッペ反応を用いた化学製品の反応原料として使用されています。今後、さらに、その特性を生かした活用が期待されています。

原子吸光分析装置(左)と厚板切断(右)

表1 各ガスの火炎温度

ガス種 メタン プロパン プロピレン エチレン アセチレン
火炎温度 2,780℃ 2,800℃ 2,900℃ 3,000℃ 3,300℃