生物に欠かせないだけでなく、あらゆる産業にとってなくてはならない存在の酸素。
酸素は、私たちが呼吸により生きていくために必要不可欠なものであるばかりでなく、鉄鋼、化学、製紙、溶接・切断、医療をはじめとする種々の産業で使われており、あらゆる産業にとってなくてはならない存在です。
酸素は空気中に約21%存在し、工業的には空気から分離して製造しています。代表的な空気分離方法として深冷分離法と吸着分離法があげられます。深冷分離法は、空気を極低温まで冷却して液化し、酸素と窒素の沸点の違いを利用して空気を分離し、酸素と窒素を製造する方法です。また、吸着分離法は特定のガス分子をよく吸着する物質を用い、温度や圧力を変化させながら分離する方法で、特に圧力変化を利用する方法をPSA(Pressure Swing Adsorption)法と呼んでいます。酸素PSAは、吸着剤に合成ゼオライトを使用し、窒素と酸素の吸着量の差を利用して分離しています。
こうして製造された酸素は、ガスの使用量や使用方法により、パイピング、液化ガス貯槽(CE:Cold Evaporator)、可搬容器(圧縮ガスボンベ、液化ガス容器)などの方法で需要家に供給されています。
酸素は強い支燃性と酸化力を持っており、その性質が産業に利用されています。例えば、鉄鋼業においては、酸素を使用することにより空気燃焼にはない高温燃焼が得られるので、原料の溶解に利用されるとともに、高炉では富化酸素(ふかさんそ)として供給され燃料の節減、操業時間の短縮、出銑率の向上などに役立っています。また、酸化力を利用して、製鋼用には転炉・電気炉で溶解した銑鉄(せんてつ)に含まれる炭素・硫黄・リンなどの不純物を酸化物として除去することに使われています。化学工業においては、その酸化力を利用して化学品製造の酸化反応工程に使用され、パルプ・製紙業においては、パルプ中のリグニンを酸化物として除去することに使われています。
空気のかわりに純酸素を使うと空気を使う場合の約5倍の酸素を溶けこませることができるため、廃水処理(酸素活性汚泥法)や活魚輸送にも利用されています。また、空気燃焼では、窒素が燃焼効率を低下させたり、窒素酸化物(NOX)の発生原因となりますが、酸素燃焼ではこのような現象は起きないので、最近では省エネや環境保護の面からも注目され、ガラス溶解やゴミの焼却・溶融にも使用されています。
医療機関が火災や地震などの災害発生時に、患者さんの安全を確保するためにまず用意すべきものが、「食料」と「毛布」そして「酸素」といわれています。酸素はご存知のとおり、医療現場では欠くことのできない重要な医薬品のひとつとして、様々な場所で使用されています。院内では主に中央配管により各病室、手術室などのいたるところに供給され、取り扱いに関するスタッフ教育の徹底や安全管理のもと、治療効果を発揮しています。
また、近年は在宅医療の普及により、肺機能に何らかの障害をもつ患者さんが退院後も自宅で酸素吸入治療を継続する「在宅酸素療法」の分野でも、その重要性と供給のあり方が注目されています。「在宅酸素療法」とは、これまで酸素吸入治療を行うために入院を余儀なくされていた患者さんが自宅での酸素吸入が可能となることにより、家庭に居ながら質の高い療養生活を実現する高度医療のひとつです。供給業者には医師による治療はもとより、患者さんの日常生活と健康を支援するため、万全の酸素供給が要求されています。患者さんは慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの疾患により自力で体内に酸素を取り込む能力が弱いため、足りない分を酸素吸入することで補いながら日常生活を送っています。多くの患者さんは24時間の吸入が必要とされ、安静時・体動時・睡眠時とそれぞれに適した流量の酸素を吸入しています。万一、機器故障などで酸素吸入できない状況が発生するとたちまち病状が変化し、最悪の場合は生命に危険をもたらすといった事態にまで発展する可能性もあるため、供給業者も365日24時間体制で対応しており、特に患者さんとの信頼関係維持には細心の注意を払っています。
患者さんは自宅で主に酸素濃縮装置や液化酸素装置などの酸素供給装置を使用し、昼夜、医師の処方した流量の酸素を鼻カニューラから吸入しています。外出時には携帯可能な小型の酸素ボンベ等を持参し、ボンベ容量の制限や火気に対する注意が必要なことなど日常生活での不便が皆無とはいえないものの、通院はもちろん、買い物や旅行など自由に外出することが可能となっています。
遠方への旅行の場合においては宿泊先での酸素の確保、旅行中に必要となる携帯ボンベ本数の計算など万全の計画をたて、サポートが行われますから、多くの方がQOLの高い生活を営むことができるようになっています。
いずれの場合も供給業者の果たす役割は重要で、患者さんの安全を第一に考え、日々努力しています。
以上のように、酸素は院内・院外を問わず、医療分野では生命の源として様々な治療に用いられ、また、医療の多様化とともにその応用範囲もますます広くなってきています。医療がさらに進歩する中で、私たち供給業者も含め、医療に関連する者は、それぞれの立場でその将来を見据え、より良い医療環境整備に貢献していかなければなりません。