はじめに
各種産業ガスは、製造工場においてガス体または液体で製造され、容器に詰められます。気体の場合は、高圧に圧縮されて高圧ガス容器に、液体の場合は、そのほとんどが超低温容器に詰められています。これらは「高圧ガス」と呼ばれ、高圧ガス保安法の規制を受けています。この法律で定めている高圧ガスとは、ガス体の場合1MPa以上、液体の場合0.2MPa以上の圧力で存在するガスのことです。
高圧ガス容器では、一般的に14.7MPaまたは19.6MPaで詰められています。この圧力は、現在の国内産業界で使用されている通常の圧力です。しかし、最近注目を集めている燃料電池自動車に使われる水素ガスを入れる容器は35MPaという超高圧になります。そして、将来的には70MPaになると言われています。
これらのガスは、中継基地や需要家へ車で輸送されます。どのようにガスが運ばれていくのか、その状況をご紹介します。
関係法令
高圧ガスを輸送(法律では移動と定義しています)する場合、その基本は高圧ガス保安法によって規制されています。高圧ガスの移動の概念を整理すると次のようになります。
(1)導管による移動
(2)車両に固定した容器(ローリ)による移動
(3)車両に積載した容器による移動
(4)車両以外による移動
高圧ガス保安法の規定では、上記の移動に関して高圧ガス保安法施行令、一般高圧ガス保安規則、その他の例示基準や通達・告示などにより、車両への積載方法、移動方法および容器に関する保安上必要な措置などの技術上の基準等が示されています。
また、高圧ガス保安協会(KHK)、都道府県などの定めた基準、マニュアル等で高圧ガスの移動に対する規制が行われています。この他、道路交通法、道路運送車両法などにより、安全運転に関する基準が定められています。
高圧ガス輸送について
高圧ガスを輸送する車両を大きく分けると、
(1)トラック
(2)ローリ
(3)コンテナ車
(4)トレーラ の4種類になります。
そして、高圧ガスを運ぶことができるのは、法令に基づいて仕立てられた専用車です。
ごく少量のガスを運ぶ場合は、適用除外となることもあります。
私たちが一目で「高圧ガス輸送専用車両」と見分けるには、車の前部と後部に「高圧ガス」の文字が書かれた警戒標識が付いているかどうかを確認すれば良いのです。
小型車では、運転席の屋根に前からも後ろからも見えるように両面に「高圧ガス」の標識を付けることもあります。
この標識が付いている車が高圧ガスを運ぶ専用車なのです。一般に高圧ガスを運ぶためには、販売業者も工事業者も一般の人も、この専用車を使わなければ、法律に違反します。
さて、高圧ガス輸送車両には、法規制があり、一般の貨物を運ぶのに比べ、さまざまな厳しい条件が付いています。主な規制を以下に示します。
イエローカードの携行
高圧ガスで、支燃性ガス(酸素など)、可燃性ガス(溶解アセチレン、LPガスなど)、毒性ガスを積んだ車の運転者は「イエローカード」と呼ばれる書面を携行します。
このイエローカードには、積んでいるガスの名称、物性、特性、性状(液体、気体など)、事故発生時の応急措置、緊急連絡先などが書かれています。
万が一の事故で、運転者が意識不明や死亡の場合、このイエローカードを見れば積荷が何であるのかすぐにわかります。そして、素早い対応ができ、荷主への連絡もつきます。また、2次災害を防ぐための措置もとれるのです。
表1 携行書面等
◎ |
イエローカード |
○ |
移動監視者を証する書面 |
○ |
「地域防災協議会会員証」写しおよび「都道府県別名簿」 または「申し合わせ書」の写し(県ごと1社以上) |
○:可燃・酸素300m3(3t)以上、毒100m3(1t)以上、または特殊高圧ガスを運搬するときに必要。
防災資材、機材の装備
高圧ガス容器が事故などで破損したり、バルブが緩んだりして中のガスが漏れることがあります。そうしたときなどの対策として、「消火器」「防災機材」などを車に装備しています。具体的な工具などは、表2に示します。
高圧ガス容器の積み方(トラックの場合)
トラックに容器を積む場合、酸素、窒素、アルゴンなどの一般ガスは、容器を縦積みまたは横積み、溶解アセチレンは容器を縦積みにします。昔からのやり方は、作業者が手で容器を動かして、車に揚げ降ろします。1本の容器(内容積47リットルで中にガスが入っている)の重さは、50kgを超えますから、この作業はかなりの重労働になります。そして、荷崩れなどが起きないようにロープでしっかり固定します。特に、毒性ガスの容器は、木枠またはパッキンを使います。可燃性ガスと酸素の容器を混載する場合は、バルブがお互いに向き合わないようにします。容器のバルブを保護するため、必ず保護キャップを取り付けます。そして、常に車上の容器の温度が40℃以下になるよう対策を施しています。
容器を車に揚げ降ろしする時には、粗暴な取り扱いをしてバルブを損傷したり、容器を破損したりしないように気をつけています。
このように高圧ガスは、厳しい法令を守り、さらにそれぞれの企業が自主保安対策を施して、需要家へ安全に安定的に運ばれているのです。

環境対策
近年、地球温暖化問題やオゾン層破壊問題など、環境対策に耳目が集まっていますが、産業ガスの輸送においても努力が続けられています。
車の排気ガス問題は、東京ばかりではなく、全国で注目されています。液化ガスを運ぶローリ対策としては、走行距離を短くするため、ローリを公認計量所へ行かせることなく、ガスの納入量を計測する方法が開発されています。これが普及すれば、ローリがユーザーと公認計量所とを移動することがなくなります。
また、計画配送の導入を進めようとしています。これらが実現すると、ローリの運行台数の減少、走行距離の短縮などの効果が出ます。
これからもガス供給企業は、住みよい環境作りのために、少しでも排気ガスを減らしたり、燃料を節約することに智恵を絞っていきます。
産業ガス輸送車両の種類
産業ガスを運ぶためには主に次のような車が使用されています。
平ボデートラック
一般ガス容器は、立てるかまたは横にし、溶解アセチレンは立てて載せます。一般的には作業者が手で容器を動かし、車に揚げ降ろしします。小型の超低温容器は立てて載せます。揚げ降ろしにはフォークリフトやクレーンを使用します。

クレーン付きトラック(ユニック車)
何本かの容器を立ててカードル(集合容器)に入れ、フォークリフトやクレーンで車に積み降ろしします。鋼製容器で内容積47リットル容器の重さは、ガスが中に入っていると50kg以上あり、一本づつなら、作業者が手で転がして揚げ降ろしできますが、カードルに入っていると持ち上げるのが無理なのでクレーン等を使います。

バン型トラック
医療用ガスや特殊ガスを運ぶのに使用されます。特殊ガスには毒性、腐食性のガスがあるので、万一の事故などでガス漏れを起こした場合は、警報が出て、すぐに知らせる装置や除害する装置が車に取り付けてあります。

ローリ
液化ガスを運ぶのに使用されます。酸素、窒素、アルゴン、液化炭酸ガスなどは超低温なので、魔法瓶のように断熱冷却してあるローリで運ばれています。

コンテナ車
液化ヘリウムを運ぶのに使用されます。国内で生産されない液化ヘリウムは、ほとんどがアメリカから、超低温(-269℃)でコンテナに入って船に積まれて輸入され、国内でもそのまま運ばれます。LNGも最近はコンテナ車で運ばれるようになりました。

トレーラ
ヘリウムガスや水素ガスを大型の容器(長尺容器と呼ばれています)で運ぶ場合に使用されます。容器の部分は、使用現場に置いてそのまま使ったり、ユーザーのガスホルダにガスを移して引き上げることもあります。
